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前立腺がん

①前立腺がんについて

食生活の欧米化にともない、日本人の前立腺がん罹患率が増加しています。2021年のがん罹患数予測では、前立腺がんが第1位となりました(国立がん研究センター がん罹患数、死亡数予測2021年)。

一方で、がん死亡数予測では第6位であり、他のがんと比較して死亡率がやや低いのが特徴です。すなわち、診断される方が多い一方で、皆が命に関わるわけではないのです。その理由は、一概に「前立腺がん」と言っても、「進行・増殖が早い“悪い”がん」もあれば、「進行・増殖が遅いおとなしいがん」もあるからです。「おとなしいがん」であれば少なくとも10年間命を脅かす可能性は極めて少ないことがわかっていますが、進行が早い悪いがんの場合には、数年で命に関わる可能性があります。

②前立腺がんの診断方法

近年は前立腺がんの腫瘍マーカーである「PSA(ピーエスエー)」の普及によって、早期に診断できるようになりました。PSAは血液を数ml採取するだけで測定することができます。健康診断などでPSAを測定し、異常(一般的には4.0以上)の場合に、前立腺がんの可能性があると判断されます。その後泌尿器科専門医によって、直腸診、MRI検査などが実施され、最終的には「前立腺生検」と呼ばれる組織検査を行い確定診断されます。

③前立腺がんと診断された方へ

「がん」と言われると、当然患者さんは驚かれ、気が動転してしまう方もいらっしゃいます。しかしながら、ほとんどの場合すぐに命に関わる可能性はありません。前立腺がんと診断された場合には、転移が無いかをCT検査骨シンチグラフィーと呼ばれる検査を行い調べることが必要です。転移が無く、早期にみつかった前立腺がんであれば、適切な治療を行えば完全に治せる可能性が高いです。まずは現在のがんの状態をきちんと把握し、最適な治療法についてじっくりと話し合うことが必要です。

④前立腺がんの治療方法

前立腺がんに対する治療は、転移があるか無いかによって異なります。早期がんに対しては手術治療(ロボット支援手術)、放射線治療(外照射、小線源、重粒子線など)PSA監視療法(無治療経過観察)の中から適切な治療方法を選択します。最近はFocal therapyと呼ばれる“がんのある場所だけ”を治療する「部分治療」も研究が行われています。一方、転移した前立腺がんに対しては、ホルモン療法を行い、がんの進行を抑える治療が中心となります。

(1)転移の無い前立腺がんに対する治療方法

1)手術療法

手術治療は、前立腺を摘出する「前立腺全摘術」が行われます。近年は手術支援ロボットの普及により、「ロボット支援前立腺全摘除術」が標準治療となりました。当院院長もこれまで300例以上のロボット支援前立腺全摘除術を執刀してきましたが、傷が小さい、出血が極めて少ないなど患者さんへの負担が少なく、前立腺周囲の筋肉などの臓器を最大限温存できるため、とても良い治療方法です。治療後の早期社会復帰が可能です。

がんを完全に摘除できるのは手術治療しかありません。患者さんは何より、悪い部分を取り除いたという安心感を得られるのが手術療法の特徴です。私の考える手術治療の特徴を挙げてみます。

手術療法の利点
  • 早期がんであれば、多くの場合がんを完全に取り除くことが可能
  • 何よりも悪い物を摘出したという安心感がある
  • もし手術後に再発したとしても、放射線治療を行い完全治癒を目指すことができる
  • 勃起神経を温存し、性機能をある程度保つことができる(がんの状態や患者さんのもともとの年齢・性機能によっては神経を温存できない場合や、性機能が落ちてしまうことがあります)
  • ロボット支援手術の普及
    手術支援ロボットDa vinci®(ダヴィンチ)の普及により、傷が小さく、合併症が少ない繊細な手術が可能となり、早期社会復帰が可能です。
  • がんが治ったかどうかのチェックが容易
    通常手術でがんを完全に取り除けば、PSA値が0.1未満に低下します。PSA値が0.1未満のまま経過すれば、再発の心配はありません。
手術療法のデメリット
  • 入院が必要である(一般的に10日から14日程度の入院が必要)
  • 手術後に尿漏れ(尿失禁)や勃起障害が生じる可能性がある
    尿漏れの程度は人それぞれですが、手術直後は多少漏れる方が多いです。6-12ヵ月経つとほとんどの方が漏れなくなります。
  • 射精ができなくなる
    前立腺を摘出すると、精液の通り道も摘出してしまうため射精はできなくなります。
  • 重度の心臓病や緑内障がある方は、手術によって後遺症が生じる可能性がある。
2)放射線治療

放射線治療は、放射線をがんの病巣に照射し、がん細胞を死滅させる治療法です。しかし同時に前立腺周辺の正常な臓器に対しても放射線はダメージを与えてしまいます。現在はがんの病巣に集中して放射線を当てながら、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えるような放射線治療が試みられています。

放射線治療にはいくつか種類があります。それぞれ特徴があり、患者さんのがんの状態や希望によって、どの治療を選択するか決めていきます。

1.外照射治療

IMRT(強度変調放射線治療)

前立腺の周囲には、膀胱や直腸などの臓器が接しているため、従来から行われてきた放射線治療では周囲臓器を守るために、充分な量の放射線を前立腺に当てることが困難でした。そこで開発されたのがIMRT(強度変調放射線治療)という技術です。IMRTは当てる線量を調節することによって、前立腺へ十分な放射線線量を集中させながら、周囲臓器への放射線照射を減らすことが可能です。前立腺がんの治療効果を保ちながら、副作用を減らすことが可能となっています。外部照射療法は入院の必要がなく、外来で治療を受けることができます。通常、1日1回週5回照射し、約1ヵ月半程度の治療期間が必要になります。外照射治療では、前立腺だけでなく周辺の臓器にも放射線があたるため、副作用として、直腸粘膜の潰瘍や出血、膀胱、尿道への影響、勃起障害などが起こる可能性があります。

重粒子線治療、陽子線治療

日本でも2018年に前立腺がんに対する重粒子線治療が保険適応になりました。放射線のうち、ヘリウムイオンより重いものを特に重粒子線と呼びます。重粒子線治療は、X線に比べてがん病巣に集中して照射されること、放射線が効きにくいがんにも効く可能性、そして治療期間が従来の放射線治療と比較し短い、という特徴があります。

一方、陽子線治療で用いられる陽子線はX線と比較し、狙った前立腺に最大限放射線量を高めることが可能で、その周りにある直腸などへの影響がほとんどありません。現在陽子線治療も転移の無い前立腺がんに対し保険診療が認められています。

2.内照射(小線源)治療

現在、日本において行われている内照射療法は、前立腺に放射線を発する小線源(ヨウ素125)を埋め込み、放射線を前立腺に照射してがん細胞を死滅させる治療法が一般的です。小線源療法は、数mmのチタンでできた小線源50~90本程度を、会陰部から前立腺に埋め込む治療です。3~4日程度の入院治療が必要です。小線源治療は外照射にくらべて、周辺の臓器への照射量を抑えることができるため、合併症が少なく、勃起障害も比較的少ないことが利点です。しかしながら、基本的には悪性度の低い(おとなしい)前立腺がんが適応になります。また重度の前立腺肥大の方は行うことが困難です。

放射線治療の利点
  • 身体を切らずに治療ができる!
    何よりも身体にメスを入れずに前立腺がんの治療ができることが放射線治療の最大の利点です。
  • 入院が必要ない、あるいは短期間
    外照射治療は入院せず、外来通院で治療が可能です。小線源治療は3-4日の入院が必要です。
  • 治療後の尿漏れが発生しない
    手術と異なり尿漏れは基本的に発生しません。
放射線治療のデメリット
  • 副作用
    治療中、治療後に放射線に伴う膀胱炎症状(頻尿、血尿など)や直腸障害(下痢、肛門周囲痛など)が起きることがあります。また、極めて稀ですが、治療後5年以上経過した後に、放射線の当たった膀胱からの出血が止まらなくなる「放射線性膀胱炎」「出血性膀胱炎」が発生することがあり、注意が必要です。
  • ホルモン治療を併用することが多い
    悪性度が中程度以上(グリソンスコア7点以上)、あるいはPSAが10以上の前立腺がんの場合、放射線治療単独ではなく、6ヵ月~3年間のホルモン治療を併用することが推奨されています。ホルモン治療は安全な治療ですが、男性ホルモン低下による種々副作用が出ることがあります。
    前立腺がんに対するホルモン治療についてはこちら
  • 毎日通院しなければならない
    IMRTなどの外照射治療では、多くの場合1カ月半程度の通院期間が必要になります。通常月~金までの平日に毎日通院が必要です。
  • 排尿障害が生じる可能性
    手術と異なり尿漏れが生じることは稀ですが、前立腺が放射線によってむくみを起こし、尿がでづらいなど、前立腺肥大症に似た排尿障害が起こることがあります。
  • 時間とともに勃起障害が生じる
    手術後と異なり、急激に性機能が落ちることはありませんが、やはり時間とともに性機能障害が生じてきます。
  • 再発の診断が時に難しい
    放射線治療が手術と異なるのは、前立腺そのものは体内に残っていることです。手術で前立腺がんがすべて取り除かれれば、通常PSA値は0.1未満まで低下します。手術を行った場合、一旦低下したPSAが0.1を超えて再び上昇を続けた場合に再発を疑うことができますが、放射線後治療後はPSAは下がるものの、どこまで下がるのかは患者さん個々によって異なります。一般的には、放射線治療後にPSAが最も下がった値から、+2.0以上までPSAが上昇した場合を再発と定義しますが、時に再発の有無を診断することが困難な時があります。
  • 再発した場合の治療選択肢が少なくなる
    手術治療後に再発した場合、放射線治療を追加することでがん細胞を死滅できる可能性が残されていますが、放射線治療後に再発した場合には、手術治療を行うことはやや危険な選択肢になります。多くの病院の泌尿器科医は、「放射線治療後は手術はできません」と説明するでしょう。私自身、放射線治療後に手術治療を行った患者さんを数人経験していますが、放射線治療によって前立腺周囲は高度に癒着しており、手術がとても大変です。放射線後の手術治療は、前立腺の後ろにある直腸を損傷する後遺症が増加すること、放射線が前立腺周囲の括約筋にも照射されているため、手術治療後の尿漏れが時に重篤であること、などのデメリットがあります。とは言え、患者さんが若年であったり、手術を行うことで完全治癒を目指せる場合に限っては、手術治療も選択肢に入ります。なぜなら、ホルモン治療を行っても前立腺がんを完全に治すことはできないからです(ホルモン治療はがんを抑え込む治療です)。
  • 2次がん発生の可能性
    放射線によるがんの発生はいまだ議論の尽きないところですが、前立腺と同時に、膀胱、直腸にも放射線が少なからず当たるため、将来的に膀胱がん、直腸がんが放射線が当たった部位に発生する可能性が示唆されています。10年、20年以上経過して発生する可能性があり、本当に放射線治療の影響なのか、たまたま放射線と関係なく発生したのかを区別することは極めて困難ですが、放射線治療後はがん発生率が上昇するといった研究があります。したがって、余命がまだまだ長い、例えば60歳未満の患者さんには放射線治療を強く勧めることはあまりありません。
3)PSA監視療法(Active surveillance)、無治療経過観察

悪性度の低いおとなしい前立腺がん(グリソンスコア6点)で、腫瘍の体積が小さい場合には、手術や放射線など副作用が生じるリスクのある治療を行わず、経過観察を行う治療です。ずっと何も治療を行わないというわけではなく、PSAの値やMRI検査、時に前立腺生検を再度行い、「がんの進行が無い場合に限り経過観察を行う」という治療です。もしがんの進行が疑われる際には、その時に手術治療か放射線治療などの治療を行うという考え方です。

PSA監視療法の利点
  • 体への侵襲(負担)が全く無い!
    当然ですが、何も治療を行わないため、手術や放射線などで生じるような副作用は一切ありません。
  • 生活の質(QOL)を落とさず生活できる期間が延びる
    手術や放射線治療は残念ながら少なからず生活の質を落とす副作用が生じることがあります。PSA監視療法を行うことで、がんの進行の有無を見極めることで、現在の生活を持続させることができます。
PSA監視療法のデメリット
  • がんが進行する可能性がある
    PSA監視療法を行っている間に、見えないところで前立腺がんが進行することがあります。定期的にチェックを行ったとしても、残念ながらがんが進行、転移してしまう可能性もゼロではありません。最初であれば手術で完治が目指せたのに、経過観察したことで完全に治すことができるチャンスを逃してしまう可能性が少なからずあるのです。
  • 精神的な負担
    身体への負担はまったくありませんが、患者さんはがんがあるのに治療しないことへの不安を抱えることがあります。「がんが進行したらどうしよう」というような不安を常に抱えることで、時にうつ病のような状態になってしまう方もおられます。
  • 前立腺生検を再度行う可能性がある
    前立腺がんと診断された患者さんのほとんどは、必ず1度は前立腺生検を受けていますが、前立腺生検はやはり不快な検査です。PSA監視療法中にがん進行の有無を調べるために、再度前立腺生検を行うことがあります。しかしながら最近は前立腺生検は行わず、MRI検査を行うことである程度がんの進行を予測できる可能性が示されつつあります。

(2)転移をみとめる前立腺がんに対する治療方法

ホルモン療法

残念ながら、CT検査、骨シンチグラフィー検査で、リンパ節や骨などの転移が発見された方は、「転移性前立腺がん」と診断されます。転移性前立腺がんは、基本的に完全治癒させることは不可能です。手術や放射線治療を行うことはせず、ホルモン治療を行い前立腺がんの進行を抑えることが治療の中心になります。
前立腺がんのホルモン治療についての詳細は、関連ページに細かく記していますので参照してください。

近年、転移がある前立腺がんに対して、転移巣が極めて少ない場合には、手術治療や放射線治療を行う試みがなされています。しかしながら、どのような患者さんが、手術や放射線のメリットがあるかはまだわかっていません。

⑤最後に

「中野駅前ごんどう泌尿器科」では、これまで多くの前立腺がん患者さんの診断、治療を行ってきた院長が、皆様の悩みにお答えいたします。どのような治療が良いのか、治療について詳しく聞きたい、などどんな質問でも構いませんので、ぜひお気軽にご相談ください。

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