男性更年期障害(LOH症候群)
①男性更年期障害(LOH症候群)とは何か?
男性更年期障害とは、加齢による男性ホルモン(テストステロン)の低下によってさまざまな症状が出現する病気のことを言い、LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ばれています。
女性は50歳前後から女性ホルモンが急速に低下し更年期障害が起こることは有名ですが、男性も男性ホルモンの低下によってさまざまな症状が現れることが知られてきました。LOH症候群と診断される患者さんは50~60歳代の方が最も多いですが、早いと40歳代で診断される方もいらっしゃいます。もしかしたら男性更年期障害かも、と思われる方は、一度検査をしてみると良いでしょう。
②男性更年期障害(LOH症候群)の症状について
下の図は、男性ホルモン低下によって起こり得る身体、精神症状をまとめたものです。
症状は大きく身体症状と精神症状に分けられます、身体症状は、早朝勃起現象(朝勃ち)の消失や勃起不全(ED)といった男性機能の低下が起こることが多いです。その他、ほてり、のばせ・汗をかきやすいなどのいわゆる更年期症状や、身体がだるい、筋力低下、骨密度低下、頭痛・めまい・耳嶋りなどの症状が出ることがあります。また尿の勢いが悪い、頻尿、夜間頻尿などの排尿症状を伴うこともあります。
精神的な症状としては、不眠、無気力、元気がない、怒りやすい、なんとなくイライラする、性欲低下、集中力や記憶力の低下、認知力の低下、などの症状が出ることがあります。これらの精神的症状は時にうつ病との鑑別が極めて困難です。
男性更年期障害になると、図に示したように“メタボリックシンドローム”が起きやすいことがわかっています。すなわち、内臓脂肪が蓄積され、高脂血症や高血圧、糖尿病などが発症し、心筋便塞、脳梗塞などの心血管系疾患のリスクが高まります。また筋力や骨密度の低下は、骨粗鬆症やフレイルと呼ばれる心身の脆弱化の原因となり、転倒や骨折などにつながります。また認知機能や記憶障害の原因となり、認知症発症の原因になります。
男性ホルモンを正常値に保つことは、男性がいつまでも元気で活力のある生活を送るためにとても重要なのです。
③男性更年期障害(LOH症候群)の診断方法について
1)質問票
男性更年期障害の診断に広く用いられている「AMSスコア」と呼ばれる質問票などに記入していただき、症状の重症度や、どの症状が特につらいのかを調べます。
Aging male’s symptoms score (AMSスコア)
2)精巣の診察、前立腺体積の測定
男性ホルモン低下の原因として精巣の異常が見つかることがあります。精巣の萎縮が無いか、診察をさせていただくことがあります。また、前立腺肥大や前立腺がんの有無を調べるために、超音波検査を行うことがあります。
3)内分泌検査、生化学検査
採血を行い、男性ホルモンの値や、男性ホルモン分泌に関連するホルモン、高脂血症の有無などを調べます。
これまで日本では男性更年期障害の診断として、男性ホルモンの一部である「遊離テストステロン」の値を調べることで判断していましたが、最近行われた日本メンズヘルス学会で、今後は諸外国と同様に「総テストステロン」の値を測定し、症状とあわせて診断することが提唱されました。総テストステロン値が正常の場合には「遊離テストステロン」を測定し、遊離テストステロン 7.5pg/ml未満を男性ホルモン低下、7.5~11.8までをボーダーラインとして、男性更年期障害と診断させていただき、治療を考慮することが勧められています。しかしながら、総テストステロン値と遊離テストステロン値を同時に測定することは保険診療の制限があり困難です。身体精神症状と主に関連するのはやはり遊離テストステロン値ですので、当院では従来通り遊離テストステロン値を測定し、症状とあわせて治療を検討させていただきます。必要に応じて総テストステロン値を測定する場合もありますので、受診時に相談させて頂きます。
血液中のテストステロン値は日内変動と言って一日の中でもその数値が変動することがわかっており、男性更年期障害の診断のためには午前中に採血を行うことが、正しい結果を得るために必要です。男性更年期障害の診断をご希望の方は、できる限り午前11時までに受診され採血をさせていただくことをお勧めいたします。また、主に50歳以上の方では、前立腺がんの可能性の有無を調べるため、PSAと呼ばれる腫瘍マーカーを測定させていただきます(PSAについて詳しくはこちら)。また、LH, FSHと呼ばれる脳下垂体ホルモンも同時に測定することが必要です。
*LOH症候群の診断基準
- 血清総テストロン値が250 ng/dL以下で、症状がある場合に性腺機能低下症(LOH症候群)と診断。治療を考慮する。
- 総テストステロン値が 250 ng/dL以上の場合には、遊離テストステロンも測定する
遊離テストステロンが7.5 pg /mL 以下であればテストロン補充療法を考慮する。
④男性更年期障害(LOH症候群)の治療について
LOH症候群の治療は男性ホルモンを上昇させることが主体になります。男性ホルモン(テストステロン)補充療法(TRTと言います)を行えば、確実に男性ホルモンを上昇させることができますが、日本で広く使用されている注射薬:エナント酸テストステロンによる治療は、125mgだと約2-3週間、250mgでも約3-4週間程度で上昇した男性ホルモンは減少してしまうため、男性ホルモンの維持には繰り返しの注射が必要になります。
また比較的若年者では、TRTによって精巣機能の低下、精巣萎縮などをきたすことがあり、妊孕性に影響を与える可能性があります。2,3回の男性ホルモン注射は安全に行うことが可能ですが、効果をみとめた場合でも注射薬の継続は推奨しません。生活習慣の改善、充分な睡眠、適度な運動、筋力トレーニング、亜鉛などのサプリメント使用、漢方薬の内服などを用いて、男性ホルモン値の改善を目指すことが良いでしょう。
精子機能を問題としない方に対しては、TRTも有効な治療法です。TRTを行い男性ホルモンを持続的に上昇させることで、筋肉量、骨密度、インスリン感受性、精神症状、性機能、健康感の改善が期待できます。
◯当院では、男性ホルモン低下が確認された患者さんに対しては、相談の上、2-3回の男性ホルモン注射を行い、症状が改善するかどうかを確認することを推奨しています。男性ホルモン注射を行なうことで症状が改善した場合、男性ホルモン低下と症状との関連ありと考えられます。早朝勃起の改善、睡眠の質の改善、寝起きが良くなった、イライラが無くなった、などの症状改善を認める患者さんが多いです。一方、男性ホルモン注射を行なっても症状が全く改善しない場合、男性ホルモン低下と症状は関連性無しと判断されます。その場合には、心療内科的治療などを勧める場合があります。
日本で認可されている男性ホルモン注射はテストステロンエナント酸エステル(商品名:エナルモンデポー)です。残念ながら日本では「男性更年期障害」に対するエナルモンデポー注射は適応がみとめられておりません。男性ホルモン低下により二次性徴が欠如する「類宦官症(るいかんがんしょう)」と呼ばれる病気や「造精機能障害による男子不妊症」に対しては保険適応がみとめられております。男性更年期障害と診断されエナルモンデポー注射を行う場合には、基本的には自由診療での注射となります。ただし、患者様の血液検査所見、身体所見などによっては、保険診療で行える場合もありますのでご相談させてください。
2-3回の男性ホルモン注射で、精子機能低下や精巣萎縮、多血症などの副作用をきたすことはありません。まずは診断のために、注射を試してみることが、その後の治療方針を明確にするために最適と考えます。しかしながら12か月以上の男性ホルモン注射を行うと、精子機能低下や精巣萎縮などの危険性があります。長期間の注射を行うよりも、もっとマイルドな方法で男性ホルモンを少しでも高める試みをしていくことが安全です。
◯PSAが4.0ng/mL以上で前立腺がんの可能性が否定できない場合には、前立腺がんの悪化の可能性があり通常TRTを行うことはできません(PSAが2.0以上の場合には、注意が必要です)。TRTにより前立腺がんが発生することを証明した研究は無く、前立腺がんが存在している可能性が低ければTRTは安全に行うことができます。前立腺がんの可能性がある患者さん(PSAが高値)は、TRTの安全性は賛否両論であり、よく相談した上で治療の可否を決めさせて頂きます。少なくとも、MRIなどで前立腺がんの可能性が低い事を確認する必要があります。前立腺がんの治療後の患者さんは、がんが治癒したと考えられる場合にはTRTを安全に行える可能性はありますが、PSAの厳重フォローの上で行うことが必要です。
◯TRTは睡眠時無呼吸症候群を悪化させることが知られており、睡眠時無呼吸症候群のある患者さんには基本的に行うことはできません(CPAP治療を行なっていれば問題ありません)。TRTを行う場合には睡眠時無呼吸症候群の可能性につき聴取させていただき、可能性がある方は、睡眠時無呼吸を調べる簡易検査を実施することをおすすめいたします。
◯日本ではテストステロン1%含有軟膏剤(グローミン®)を特定の薬局やクリニックで購入し使用することができます。テストステロン含有濃度が低いため、その効果は限定的ですが濃度が低くても継続することで、男性ホルモン値は確実に上昇します。実際に当院でもグローミン®使用後に男性ホルモン値が正常となり、症状が大幅に改善している患者様を多く経験しています。グローミン®軟膏は濃度が低い一方で、副作用が少ないメリットがあります。注射で症状が改善した場合には、患者さんの症状、希望に応じて、グローミン®軟膏に切り替えて、継続するのも一つの方法です。当院でもグローミン®軟膏を取り扱いしていますので、是非お問い合わせください。
グローミンの1回の使用量は、人差し指の第一関節の長さ(約2cm)です。本剤をチューブ先端から2cmとりますと、約0.3gになり、この中に含まれるテストステロン量は約3mgとなっています。本剤は10g入りですので、0.3gずつ取り出すと、約33回分となります。1日1回塗っていただいた場合には、約1ヶ月分の内容量になっています。
〇テストステロン5%含有軟膏剤(1UPフォーミュラ®)について
グローミンで男性ホルモンの上昇が十分でない場合には、テストステロン5%含有軟膏剤である「1UPフォーミュラ®」がメンズヘルス学会認定のテストステロン治療認定医により処方することが可能です。当院でも処方可能ですので希望の方はご相談ください。1UPフォーミュラを処方する場合には、当院から「オールインワン薬局」に処方箋を送付し、数日後に患者さんの自宅に薬剤が届けられます。薬剤が届いた後に、患者さんご自身でオールインワン薬局に薬剤料金(税込:12100円)をお支払いいただきます(別途クリニックで処方箋料として1500円かかります)。グローミン軟膏は10g、1UPフォーミュラは20gですので、グローミンの2倍量の軟膏が含有されています。
◯比較的若年者で、男性ホルモンの低下により身体的・精神的症状が強く出ている患者さんで、男性ホルモン注射により症状が改善した方の中には、男性ホルモン注射継続を希望される方がいらっしゃいます。しかしながら、先述したように、長期間の注射は精子機能の低下だけでなく、精巣萎縮を起こす可能性があります。精巣は男性ホルモンを作る場所であり、精巣が萎縮すれば自身で男性ホルモン(テストステロン)を産生する力が低下することが懸念されます。したがって、当院では男性ホルモン補充を希望され、継続を希望する患者さんには、HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)と呼ばれる、ホルモンの注射を行うことを推奨しています。ヒト絨毛性ゴナドトロピンは、脳の下垂体と呼ばれる場所から産生されるホルモンで、精巣に指令を出し、精子機能の向上や、テストステロン産生を促進する作用があります。つまり、外から男性ホルモン(テストステロン)を注射する治療と異なり、自身の精巣を頑張らせてテストステロンを上昇させる治療ですので、自然な形でのテストステロン上昇が期待できます。また、精子機能低下や精巣萎縮などの副作用も心配ありません(HCG注射はもともと男性不妊症の方に対する治療として使用されています)。ただし、もともとヒト絨毛性ゴナドトロピンが高値の男性更年期患者さんには効果が見込めませんので、使用できません。HCG注射のご希望の方は気軽に当院にご相談ください。
最後に
更年期障害は女性特有の症状と思われてきましたが、男性も男性ホルモン低下によって様々な症状が出現することが最近の研究で明らかになりました。男性更年期障害の症状を自覚した際には、歳のせいとあきらめる前に、一度検査を行うことをお勧めいたします。
「中野駅前ごんどう泌尿器科」では性機能学会専門医、テストステロン治療認定医の院長が、的確な診断、治療を行います。