過活動膀胱
~ 歳のせいとあきらめずに一度専門医に相談を!~
- ①過活動膀胱とは?
- ②過活動膀胱の症状・検査について
- ③過活動膀胱の治療~まずは生活指導と薬物療法を
- ④薬物治療が効かない場合:薬物療法抵抗性の難治性過活動膀胱に対するボツリヌス毒素(ボトックス)膀胱壁内注入療法
- ⑤過活動膀胱の症状で悩まれている患者様へ
①過活動膀胱とは?
「過活動膀胱」とは、トイレが間に合わない!(尿意切迫感と言います)という症状を主体とした病気で、突然起こる激しい、強い尿意や、トイレに何回も行く、夜中トイレに何度も起きる(夜間頻尿)、尿が我慢できず漏れてしまう(切迫性尿失禁)などの症状を伴うことがあります。
突然くる強い尿意は、膀胱が自分の意思とは関係なく勝手に収縮してしまう(無抑制収縮と言います)ことが原因と言われています。
過活動膀胱の症状を有する人の数は 2012年の調査では1,040万人(有症状率 約14%)と推定され、70歳以上の4~5人に1人が過活動膀胱の症状を自覚していると言われています。
男性の方が少しだけ多い病気です。
脳梗塞や脳出血などの脳卒中、パーキンソン病などの脳の病気や脊髄の病気があると、膀胱の尿意をコントロールする神経の制御ができなくなり、過活動膀胱が生じることがあります。
また、前立腺肥大症によって膀胱の出口が狭くなり、排尿時に膀胱内圧が上昇し負担かかることで、膀胱内の感覚神経が壊れ過活動膀胱が起こることがあります。
膀胱の血流障害が膀胱内腔の感覚神経の異常をきたし過活動膀胱の原因であることが報告されています。
膀胱内には毛細血管がたくさんあり、加齢とともに動脈硬化が増えるのと一緒に、膀胱内の血流も徐々に低下します。
これが過活動膀胱の頻度が加齢とともに増えることの原因と言われています。
②過活動膀胱の症状・検査について
過活動膀胱と診断するためには、まず過活動膀胱症状スコアという問診票を用いて、症状の程度を調べることが重要です。
基本的に「トイレが間に合わない」という尿意切迫症状がある場合に、過活動膀胱と診断します。
膀胱がんや膀胱炎、膀胱結石症などがあると、過活動膀胱の症状が出現することがあるため、尿検査や腹部超音波検査、場合によって癌細胞の有無を調べる尿細胞診検査を行い、別の病気が潜んでいないかを確認する必要があります。
また残尿測定検査で残尿量が多くないかも調べます。
女性の場合は巨大な子宮筋腫が膀胱を圧迫して過活動膀胱症状が出ることがあります。
男性の場合は、前立腺肥大症、前立腺がんの有無を調べることも大切です。
過活動膀胱症状スコア(OABSS)
③過活動膀胱の治療~まずは生活指導と薬物療法を
症状が軽い場合は、生活指導や膀胱訓練(尿を我慢する訓練)、骨盤底筋体操などを行い、様子を見ることがありますが、症状が中等症以上の場合や、症状によって日常生活に制限が出て困っている患者さん(トイレが心配で、映画館に行けない、電車・バスに乗るのが怖い、旅行に行けないなど)は、薬の治療(薬物治療)を開始します。
薬には膀胱の収縮を抑える「抗コリン薬」や、膀胱の筋肉を緩める「β(ベータ)3刺激薬」という薬が主体です。
抗コリン薬は膀胱の収縮を抑制してくれますが、唾液を分泌する唾液腺や、腸を動かす平滑筋という筋肉の働きも抑えてしまうことがあり、唾液低下→口の渇き(口喝) や、腸の運動低下→便秘を引き起こすことがあります。
一方β3刺激薬は、口喝や便秘の副作用は少ないため、最近はβ3刺激薬であるベタニス®やベオーバ®を処方することが多くなりました。
しかしながら、患者さん個々で、相性の良い薬が違うことがわかっており、薬が効かない場合は、違う薬を試してみることが大切です。
一つの薬で効果が弱い場合には、2つの薬を組み合わせて飲むことが有効な場合があります。
抗コリン薬、β3刺激薬どちらも膀胱の収縮を抑えることで過活動膀胱症状の改善が期待できますが、一方で膀胱の収縮能を低下させ、排尿障害が出現することがあります。
したがって、薬を飲む場合には、定期的な残尿測定検査や尿検査などでのチェックが必要です。
前立腺肥大症がある男性患者さんでは、これらの薬を飲むことで尿閉(尿が出なくなること)になることがあり、注意が必要です。
④薬物療法抵抗性の難治性過活動膀胱に対するボツリヌス毒素(ボトックス)膀胱壁内注入療法
これまで、日本では薬物治療が効かない「難治性過活動膀胱」患者さんに対して行うことができる有効な治療はありませんでしたが、2017年に過活動膀胱に対する「仙骨神経刺激療法(SNM)」が保険適応となり、そして2020年には「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」が保険適応となり、使用可能となりました。
仙骨神経刺激療法(SNM)は有効な治療法ですが、お尻(臀部)の皮膚の下に器械を埋め込む手術が必要で、希望する患者さんが少ないのが現状でした。
一方で、「ボツリヌス毒素(ボトックス®)膀胱壁内注入療法」は手術手技も簡便で、機械を体内に埋め込むことが不要であることから、保険収載以来日本でも広く行われています。
ボツリヌス毒素(ボトックス)膀胱壁内注入療法の安全性と有効性について
ボツリヌス毒素(ボトックス®)膀胱壁内注入療法は2000年に初めて海外で実施、報告され、その高い治療効果と安全性から欧米を中心に普及した治療法です。 ボトックス®は額のしわを取る美容医療で有名ですが、実は美容以外の医療でも広く使用されている安全性の高い薬剤です。
たとえば眼瞼(まぶた)のけいれん、手足の痙縮(筋肉が固まり動かない)、小児の脳性麻痺患者における下肢痙縮、重度の腋窩多汗症、斜視などの病気に対してボツリヌス毒素は使用されています。
そして薬物治療で効果不十分あるいは副作用により薬物治療が続けられない過活動膀胱患者さんに対する尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁という症状に対し、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は高い有効率が証明されています。
使用するA型ボツリヌス毒素は内視鏡を用いて膀胱の壁内に注入することで、膀胱の神経に結合し、筋弛緩作用(筋肉をゆるめる)を示し、過活動膀胱に伴う種々の症状を改善することがわかっています。
ボツリヌス毒素(ボトックス®)膀胱壁内注入療法はどんな治療なのか?
「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」は膀胱鏡というカメラを膀胱内に挿入し、膀胱の壁内(筋肉内)にA型ボツリヌス毒素を注射する治療です。
泌尿器科の外来で用いる細く柔らかい軟性膀胱鏡で行うことが可能です。
麻酔方法は腰椎麻酔(下半身麻酔)、全身麻酔、膀胱局所麻酔(局所麻酔薬の膀胱内注入)のいずれの方法でも可能です。
膀胱鏡を膀胱内に挿入し、膀胱の筋肉内に専用の細い針でボツリヌス毒素を20箇所に分けて注入します。
実際の手術時間は15分程度です。
完全な無痛をご希望の方は腰椎麻酔、全身麻酔が必要となりますので、入院で実施できる施設を紹介させていただきます。
当院では日帰り治療で「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」を行っています。
膀胱内に細いカテーテル(チューブ)を挿入し局所麻酔薬を入れて膀胱内の麻酔を行うことで、ほとんどの患者さんは我慢できる程度の痛みしか感じません。
局所麻酔治療のメリットは、入院の必要がないこと、治療後すぐに排尿状態を確認できること、治療後体調に問題がなければすぐに帰宅できることです。
当院院長はこれまで2020年からこの治療を開始し、これまで10名以上の患者さんに実施してきましたが、きわめて安全性の高い治療で、非常に有効であった患者さんを経験しています。
一方で、この治療を行っても効果があまり無かった患者さんもいらっしゃいます。
「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」をご希望の方は、治療の必要性、有効性、治療の適応についてよく相談させていただければと思います。
患者さんの中には意外と、飲み薬の種類を変えただけで効果が出た方もいらっしゃいます。
過活動膀胱でお困りの際は、ぜひ中野駅前ごんどう泌尿器科にご相談ください。
「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」の治療効果は通常、治療後2~3日で現れます。
注意点は治療効果が永久的に続くわけではないことで、持続期間は4~8ヵ月と言われており、患者さん個々で持続期間は異なります。
効果が不十分な場合、あるいは薬の効果が弱まり症状が再発した場合は、前回投与日から3ヶ月以上経過していれば再投与することが可能です。
難治性過活動膀胱に対するボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法はとても有効な治療法ですが、治療のメリット、デメリット、これまでの治療内容、そして患者さんの症状についてよく相談させていただいた上で、治療を行うかどうかを決めていくのが良いと思っています。
ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の副作用について
この治療後に、以下の副作用が出ることがあります
肉眼的血尿(2%程度)
膀胱内には毛細血管が数多く存在しています。
実際の治療時には、膀胱内の血管を避けて薬剤を膀胱壁内に注入しますので、血尿は無いか、軽度であることがほとんどです。
血液をサラサラにする薬を飲んでいる患者さんは、可能であれば薬をしばらく中止した上で治療を行う方が安全です。
尿路感染症(5%程度)
この治療は内視鏡を膀胱内に挿入して行いますので、尿の出口付近に存在する細菌が膀胱内に入り込み膀胱炎や前立腺炎などの尿路感染症を引き起こすことがあります。
尿路感染症が起きた場合には、抗生物質の投与で治療を行います。
排尿困難、残尿の増加(5~9%)
ボツリヌス毒素は、筋肉を弛緩(ゆるめる)作用がありますので、この治療後に膀胱の収縮力が低下し、尿が出しづらい、尿を出しきれず残尿が残ってしまうなどの副作用が出ることがあります。
治療後は数日後に受診していただき、排尿の具合をチェックさせていただきます。
残尿量が多く、自分自身で十分排尿できない場合には、症状が改善するまで自己導尿(自分自身で尿道にカテーテルを挿入し尿を排出させる手技)を行っていただくことがありますが、きわめて稀です。
薬によるアレルギー反応(1%以下)
万が一薬によるアレルギー反応が出現した場合、軽い副作用としては吐き気、じんましん、発疹など、重篤な副作用として喘息発作やアナフィラキシーショック(血圧低下)などの症状がでることがあります。
当院では万が一重症アレルギーが出た場合でも即座に治療できる薬剤を常備し治療を行っています。
ボツリヌス毒素治療の適応について
以下の条件に当てはまる方は、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を受けることができません。
- 現在尿路感染症(膀胱炎など)にかかっている方
- もともと重度の排尿障害があり、自己導尿を行っていない方
- 全身性の筋力低下を起こす病気(重症筋無力症、ランバート・ イートン症候群、筋萎縮性側索硬化症など)がある方
- 妊娠中あるいは授乳中の方、妊娠している可能性のある方
- 過去にボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を受け、発疹などのアレルギーを生じた方
- 副作用で自己導尿が必要になった場合に、自己導尿の実施に同意いただけない方
また、以下の条件に当てはまる方は、ボツリヌス療法を受ける前に医師に申し出てください
- 過去にボツリヌス毒素治療を受けたことがある方(その時の病名、治療時期、投与量をわかる範囲で教えてください)
- 現在、なんらかの薬を内服している方。一部の抗生物質や筋弛緩薬、精神安定剤など、ボツリヌス毒素治療と同時に使用する場合は注意を要する薬があります。また、血液をさらさらにする薬(抗血小板薬・抗凝固薬)を内服中の方は、治療前後に薬の中止をすることがあります。
- 慢性的な呼吸器の病気(喘息など)がある方
ボツリヌス毒素治療後の注意点について
治療当日は、激しい運動、入浴、飲酒などは控えてください。血行が良くなり血尿がでることがあります。
翌日以降は、いつも通り生活していただいて構いませんが、血尿が続く場合や発熱した場合(38度以上)は念のためご連絡ください。
女性は治療後2回の月経が終わるまで、男性は治療後3ヵ月が経過するまで、避妊に必要な措置をとってください。
ほかの医療機関や診療科を受診する際には、「過活動膀胱」に対してボツリヌス療法を受けたこと、および 治療時期をわかる範囲で医師に伝えてください。
ボツリヌス療法を繰り返し行った場合、きわめて稀ですが体内で抗体がつくられ、それまで得られていた治療効果が出なくなることがあります。
複数回の治療を受けたのち、明らかに以前より効果が弱まっていると感じた場合には、遠慮なく申し出てください。
⑤ 過活動膀胱の症状で悩まれている患者様へ
「過活動膀胱」は患者さんの命を脅かす病気ではありません。
しかしながら、過活動膀胱の症状により、外出に制限などが出て、生活の質(QOL)が大きく低下している場合には、治療を行うことで症状が改善する可能性があります。
過活動膀胱に対しては、まずは行動療法や飲み薬による治療が第一選択です。
薬物療法である程度の効果がある患者さんは、本治療を行う必要はありません。
治療薬も数多くあり、薬を変えることや組み合わせて使うことで効果が出る方もいらっしゃいます。
一方薬物治療を行っているのにも関わらず治療効果が無い、副作用で薬が続けられない、過活動膀胱の症状で日常生活が制限され悩まれている患者さんは、「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」が有効である可能性があります。当院院長は前任地である東京国際大堀病院でボツリヌス毒素膀胱注入療法を数多く実施してきました。患者さんによってはとても効果があり、またお身体の負担が少ない治療法です。
過活動膀胱の症状でお困りの際はぜひ一度「中野駅前ごんどう泌尿器科」に相談にきてください。
一緒に最適な治療法を考えていければと思っています。