尿路感染症について
尿路感染症(Urinary tract infection: UTI)について
1.尿路感染症とは
尿の通り道である、膀胱、尿道、腎盂・尿管、前立腺(男性のみ)は尿の通り道で総称して尿路と呼ばれます。尿路に生じた細菌やウイルスによる感染症を「尿路感染症」とよびます。膀胱に生じた感染症は「膀胱炎」、尿道は「尿道炎」、腎盂に生じれば「腎盂腎炎」となります。また男性の精巣上体は正確には尿の通り道ではありませんが、精巣上体への細菌感染は細菌が尿路を通って精巣上体に達することで生じますので、精巣上体炎も尿路感染症の一つに分類されています。クラミジア尿道炎など性行為によって尿道に生じ得る感染症も広義では尿路感染症ですが、一般的には性感染症と尿路感染症は別の病気として扱われます。性行為と関係の無い尿道炎は尿路感染症として扱われます。
2.尿路感染症
膀胱炎
1.膀胱炎とは?
膀胱炎は、膀胱に起きた炎症によって排尿時痛など様々な症状が出現する病気のことを言います。膀胱炎のほとんどは大腸菌などの細菌が膀胱内で繁殖することによって起きる「細菌性膀胱炎」ですが、時に骨盤内への放射線治療後に生じる「放射線性膀胱炎」、抗がん剤治療後に生じる「出血性膀胱炎」、ウィルスが原因のウィルス性膀胱炎などが生じることがあります。ここでは最も頻度が高い「細菌性膀胱炎」について説明させていただきます。細菌性膀胱炎は男性よりも圧倒的に女性に多く、膀胱炎にかかったことがある女性の方はかなり多いのではないでしょうか? 女性は男性と比較し尿道が短いため、細菌が膀胱内に侵入しやすく、膀胱炎を引き起こしやすいという特徴があります。
2.膀胱炎の原因について
細菌性膀胱炎の原因としてもっとも多い細菌は、大腸菌などの腸内細菌です。すべての人の肛門周囲には腸内細菌が存在していますが、その腸内細菌が尿道から膀胱内に侵入することが膀胱炎のきっかけになります。膀胱内に細菌が侵入することを100%防ぐことはできません。昔から“尿は無菌である”と信じられてきましたが、実は健康な女性の膀胱内の尿を調べた結果、多くの人で細菌が存在することが判明しており、尿は無菌ではないことがわかりました。したがって、単純に膀胱内に細菌が侵入しただけでは、膀胱炎は発症しないことがわかります。
膀胱内に侵入した細菌が繁殖し、そこで炎症を起こした場合に、はじめて膀胱炎は発症します。よく、“トイレを我慢すると膀胱炎になる”と言いますがその通りで、膀胱内に長らく細菌がとどまった場合に細菌は繁殖します。また、疲れや冷えなどで体の抵抗力が下がった時に、細菌は繁殖します。一方、水分をたくさん摂取し、何度もトイレに行けば、細菌は繁殖する前に体外に排出されるため、膀胱炎にはかかりにくくなります。水を飲め飲めというのは膀胱炎の予防のためには理にかなっているのです。
3.膀胱炎の症状は?
典型的には、排尿時痛(排尿時の尿道痛、下腹部痛、違和感)、頻尿、残尿感、尿意切迫感などが出現します。炎症がひどい場合には血尿が出ることもあります。膀胱炎のみで発熱することは基本的にありません。膀胱内で繁殖した細菌を身体が“敵”と判断し、免疫細胞である“白血球”を膀胱内に送り込みます。膀胱内では細菌と白血球の戦いが起き、膀胱内が戦場となるため炎症が生じ、上記の症状が出現します。
4.膀胱炎の検査について
①尿検査
膀胱炎は尿検査でほぼ診断可能です。尿検査で尿の中に白血球が増えているか、を評価することが必須です。尿検査では白血球増加の有無を調べることができ、膀胱炎の診断だけでなく、治療後に膀胱炎が確実に治ったかどうかの診断を行うことができます。
膀胱炎の診断には、かならず排尿の途中の「中間尿」を採取し、調べることが必要です。出始めの尿(初尿)だと、尿道や陰部周囲にもともと存在する細菌や白血球などが混じってしまい、正確な診断ができないことがあります。
②尿中細菌培養検査
尿検査で膀胱炎が疑われる場合、かならず原因となる細菌の種類を特定することが必要です。膀胱炎の原因の多くは大腸菌などの腸内細菌ですが、時に腸内細菌以外の細菌が原因で膀胱炎になることがあります。また、細菌培養検査では、原因となる細菌に有効な抗生物質を特定することができます。近年、抗生剤が汎用されることによって、抗生物質が効きづらい細菌が多く検出されています。抗生物質の治療の前に細菌の種類、有効な抗生物質をしっかり調べておけば、万が一治療で治らない場合でも、次の最適な治療薬を決定することができます。
③その他の検査
膀胱炎を繰り返す場合(再発性膀胱炎)や、適切な抗生物質を内服しても膀胱炎が治らない場合(難治性膀胱炎)には、膀胱内に何らかの原因が潜んでいることがあります。稀ですが、膀胱結石や膀胱がんなどが潜んでいることがありますので、繰り返す場合、治らない場合には、超音波検査や膀胱鏡検査、尿細胞診検査などで、別の病気がないか調べることがあります。しかしながら、一般的な細菌性膀胱炎に対し、いきなりこのような検査を行うことはありません。尿検査で十分診断、治療が可能ですので、気軽に受診してください。
5.膀胱炎の治療方法
細菌性膀胱炎の治療は抗生物質の内服です。通常、大腸菌など腸内細菌に有効とされる適切な抗生物質を3~5日間内服することで膀胱炎は完治します。糖尿病やステロイド内服中など、抵抗力が低下している患者さんの治療の際には1週間程度内服をして頂く場合もあります。
6.膀胱炎を繰り返す!!「再発性膀胱炎」
膀胱炎を短期間で繰り返す場合には、何らかの原因が潜んでいることがあります。超音波検査などで膀胱や腎臓内に、結石など細菌の温床になる異常がないか、排尿後も残尿が多く残っていないかなど、原因を調べる必要があります。また他院で膀胱炎の治療した後に、すぐ再発する患者さんがいますが、“尿沈渣”検査で膀胱炎の完治を確認していない場合が多々あります。膀胱炎が完治したかどうかは、“尿沈渣”検査で必ず白血球の数を調べ判断する必要があります。一方、膀胱炎を繰り返す場合には、生活習慣に原因がある場合があります。排便後の拭き方やウォッシュレットの使用、性行為、排尿を我慢する職場環境など、原因となり得る生活習慣があれば、改善することで膀胱炎にかかりづらくなります。
また、女性の場合、尿道周囲の陰部の環境によって、尿道から細菌が侵入しやすくなることがあります。陰部をいつも念入りに洗っていたり、加齢によって女性ホルモンが低下すると、陰部を外敵から守ってくれている良い細菌(常在菌)が減少し、尿道から細菌が侵入しやすくなります。その場合、お薬などを使うことで陰部の環境を整えることで、膀胱炎が予防できる可能性があります
1日に1500ml以上の飲水をした場合には膀胱炎の再発が抑えられることが科学的に証明されています。膀胱炎を繰り返す方は、水分摂取を頑張りましょう。
7.膀胱炎が治らない!!~「難治性膀胱炎」「慢性膀胱炎」
“再発性膀胱炎”と基本的に方針は同じです。治らない原因が無いか、きちんと調べることが必要です。特に、80歳以上の高齢者や、身体の免疫力が低下する病気がある方などで、膀胱内に細菌が多く存在しるにも関わらず白血球が細菌と戦ってくれないため、膀胱炎が慢性化する「慢性膀胱炎」となることがあります。症状がなければ、治療の必要性は低いのですが、症状がある場合には、抗生物質の治療に加え、抵抗力を高めるための漢方薬の治療を併用することがあります。
膀胱炎は女性に多い病気で、適切な診断、治療を行えば多くの場合数日で完治します。しかしながら、適切に診断、治療をしなければ、繰り返したり、むやみに抗生物質を長期間投与され、難治性膀胱炎やカンジタ膣炎などを発症し、症状に苦しむ場合があります。膀胱炎かも?と思ったら、「中野駅前ごんどう泌尿器科」にお気軽にご相談ください。適切な診断、治療を行い、症状が早く改善するよう最善を尽くさせていただきます。
細菌性前立腺炎
1.細菌性前立腺炎とは?
前立腺炎は、急性、慢性、細菌性、非細菌性の4つに分類されますが、ここでは急性細菌性前立腺炎について説明します。細菌が前立腺に付着することで前立腺の炎症が生じ、急激な症状が出現する病気です。
2.細菌性前立腺炎の原因について
尿道から細菌が侵入し(逆行性感染)前立腺に付着することで発症することが多いですが、時に他の場所から細菌が血流にのって前立腺に付着する血行性感染も存在します。原因の細菌は大腸菌などの腸内細菌がもっとも多く60%を占めますが、ブドウ球菌などの皮膚常在菌が原因で発症することもあります。尿道カテーテル留置や、精巣上体炎・尿道炎などが先行して前立腺炎が発症することもあります。また前立腺肥大症や尿道狭窄などによる排尿障害が原因で発症することもあり、前立腺炎を繰り返す場合には排尿障害が無いかを調べることが重要です。
3.細菌性前立腺炎の症状は?
突然の悪寒(寒気)、38度以上の高熱(時に40度)、全身倦怠感、排尿時痛、尿道痛、会陰部痛、膀胱炎症状(頻尿、残尿感、尿混濁など)が典型的な症状です。
4.細菌性前立腺炎の検査
①尿検査
細菌性前立腺炎の場合、尿検査で異常をみとめます。尿検査を行い尿中白血球や細菌が増加していることを確認します。
②腹部超音波検査
前立腺炎の原因として、前立腺肥大症や膀胱結石などの尿路異常がないかを調べます。また排尿後の残尿量を測定し、残尿が多い場合にはカテーテル挿入などの処置が必要になることがあります。
③血液検査
血液検査で炎症反応の数値を調べます。炎症反応が異常に高い場合には、重症と考え入院治療が必要になることがあります。
④CT検査
初回から行うことはあまりありませんが、治療を行っても前立腺炎がなかなか治らない場合には、造影剤を使用したCTを行い、前立腺内部に膿の溜まり(膿瘍)がないか調べることがあります。膿瘍がある場合、抗生物質での治療が効かないことがあり、膿瘍を針で穿刺し膿を体外に出してあげる治療が必要になることがあります。
お尻から指を入れ前立腺を触診する直腸診検査を行うと、前立腺部に強い痛みをみとめ、前立腺炎と診断することができますが、直腸診によって細菌が血液中に押し込まれ感染症が重症化することがあるため、あまり行うことはありません。
5.細菌性前立腺炎の治療
適切な抗生物質の治療を行います。軽症の場合は内服薬の抗生物質で完治が可能ですが、重症の場合は入院し点滴での抗生物質治療が必要になります。前立腺は抗生物質が届きにくい臓器で、最低でも2週間の治療期間が必要です。前立腺肥大症や残尿過多など、細菌性前立腺炎の原因となる病気が潜んでいる場合には、排尿障害の治療薬を併用することがあります。適切な抗生物質を投与し、症状が消失し、血液検査、尿検査所見が正常化すれば完治となります。治療期間が短いと再発することが多く、必ず適切な期間抗生物質を投与することが必要です。糖尿病のコントロールが悪い方は治療をしてもなかなか治らないことがあるため、血糖のコントロールを並行して行います。
腎盂腎炎
1.腎盂腎炎とは?
腎盂と呼ばれる尿の通り道の細菌が繁殖し、腎臓全体に炎症が波及する感染症です。
2:腎盂腎炎の原因は?
大腸菌などの腸内細菌が、膀胱から逆行性に腎臓内に到達し炎症を生じる逆行性感染が主な原因です。したがって、腎盂腎炎の前に、膀胱炎症状(排尿時痛、頻尿、残尿感など)を伴うことが多いです。膀胱炎を治療せず放置すると、腎盂腎炎になる可能性があります。小児期に発症する場合、膀胱尿管逆流症と呼ばれる膀胱内の尿が腎臓に逆流する病気が原因で発症することがあります。
腎盂腎炎の多くは女性に発症します。膀胱炎が女性に多いのがその理由です。一方、尿管結石などにより尿路閉塞(尿の通り道がふさがること)が生じると、男性にも発症することがあります。糖尿病など免疫力が低下する病気があると、発症する可能性が高くなります。妊娠によって子宮が膨らみ尿管が圧迫されることで腎臓からの尿の流れが悪くなり腎盂腎炎が発症することがあります。
3.腎盂腎炎の症状は?
悪寒(寒気)を伴う高熱が特徴です。40度の高熱がでることも稀ではありません。背中の腎臓部の痛みを伴うことが多く、その場所を叩くと痛みが響くことが特徴です(叩打痛と言います)。腎盂腎炎は腎臓の炎症ですので、炎症が腎臓周囲に広がると、胃や十二指腸の動きが悪くなり、吐き気や嘔吐、食欲低下をともなうことがあります。先行する膀胱炎が原因のことが多く、典型的には排尿時痛や頻尿などの膀胱炎症状をともないます。
4.腎盂腎炎の検査
①尿検査
尿検査で白血球の増加をみとめます。また尿細菌培養検査を必ず行い、原因となる細菌を特定することが重要です。
②血液検査
腎盂腎炎では血液中の白血球やCRP値などの炎症反応が上昇します。炎症の程度を調べることができます。
③腹部超音波検査、CT検査
画像検査を行い、尿路結石(腎結石、尿管結石など)や尿路閉塞がないかを調べることが重要です。尿路結石や尿路閉塞があると腎盂腎炎がなかなか治らず重症化することがあります。
5.腎盂腎炎の治療
適切な抗生物質を投与することで多くは改善しますが、尿路結石や尿路閉塞がある場合にはそれらの治療を並行して行わないと完治しないことがあります。通常2週間の抗生物質の治療が必要です。糖尿病やステロイド内服などで免疫力が低下している場合には、治りが悪いことがあります。尿路結石などの原因がない、単純な腎盂腎炎(単純性腎盂腎炎)で軽症の場合には、飲み薬の抗生物質治療を行い完治できますが、症状が重篤で、食事や水分摂取も難しい場合には入院での点滴治療が必要となります。
尿道炎
男性に多い病気です。女性は尿道が短いため、尿道炎が単独で発症することは極めて稀です。尿道炎の多くはクラミジアや淋病などの性感染症で生じます。性感染症にともなう尿道炎は「性感染症」の項目で説明していますので参照してください。一方、性行為をおこなっていないのに尿道炎が発症することが時にあります。尿道炎が起きると、典型的には排尿時の痛みや、尿道から膿が出るなどの症状をともないます。性行為をともなわない尿道炎の原因となる細菌は、大腸菌などの腸内細菌や陰茎・亀頭周囲の常在菌であることが多いです。尿道炎の診断には、必ず出始めの尿(初尿)を採取し、“尿沈渣”検査で白血球数を調べることが重要です。尿沈渣で白血球が増加していれば、尿道炎の可能性を考え抗生物質の治療を開始します。適切な抗生物質を投与することで、多くの尿道炎は完治します。
精巣上体炎
1.精巣上体とは?
精巣上体は男性の精巣(睾丸)に付着する約6-7㎝の細長い管腔臓器です。その機能は精巣で発生した精子の収集、精管への輸送で、精子の成熟にも関与すると言われています。
2.精巣上体炎とは?
精巣上体炎は精巣上体におきた炎症で、陰嚢が痛くなる病気(急性陰嚢症)の原因として最も頻度が高い病気です。尿道の出口(外尿道口)から侵入した細菌が、精液の通り道である精管や精索のリンパ管を介して逆行し、精巣上体に達することにより発症します。重症化すると周囲臓器や陰嚢に炎症が波及し、陰嚢皮膚から膿がでることもあります。
3.精巣上体炎の原因は?
精巣上体炎は30歳代から50歳代の青年期に多いとされていますが、高齢者に発症することもあります。前立腺炎、尿道炎、膀胱炎などに合併することも多く、原因として大腸菌などの腸内細菌が大半ですが、クラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌が原因微生物であることも少なくありません。中高年の方に発症する場合は、前立腺肥大症や尿道狭窄などが存在していることが多く、排尿障害が無いかを調べることも重要です。尿道カテーテルが入っている方や、泌尿器科で経尿道的手術を行ったあとに発症することもあります。
4.精巣上体炎の症状は?
精巣上体に炎症が起きることで陰嚢が腫れ、痛みを伴います。触診で、精巣上体部の腫大、痛みがあれば、まずは精巣上体炎を疑います。精巣(睾丸)に炎症が波及した場合には、陰嚢内に大きな塊として触れることもあり、また精子の通り道である精索にまで炎症が拡がることがあります(精索炎)。典型的には発熱を伴い、重症の場合38度以上の高熱がでることもあります。
5.精巣上体炎の検査
①触診
先述したように触診で精巣上体部の腫大、痛みをみとめることである程度の診断は可能ですが、時に精巣(睾丸)が捻じれる精巣捻転症と鑑別が困難な場合があり、超音波検査を行うことでより確実な診断が可能です。
②尿検査
多くの場合、尿検査で異常をみとめます。尿検査で白血球が増加していることを確認し診断します。時に尿に異常をきたさない精巣上体炎も存在しており、尿の異常がないからといって精巣上体炎を否定することはできません。精巣上体炎の原因菌を特定するため、尿細菌培養検査を行っておくことが大切です。
③血液検査
必須の検査ではありませんが、高熱が出ていたり陰嚢部の腫れがひどい場合には、血液検査を行い炎症の程度を調べます。炎症反応が異常に高い場合には、入院し点滴での抗生物質治療を行うことがあります。
④陰嚢超音波検査
精巣上体炎は、超音波検査で、精巣上体の腫れが確認できます。超音波検査を行えば、ほぼ正確に診断可能です。また精巣上体、精巣の血流を調べることで、精巣捻転症の存在を否定することが重要です。
⑤性感染症の検査(PCR検査)
性行為が感染のきっかけの場合には、クラミジアや淋菌などの性感染症の検査を行うことがあります。
6.精巣上体炎の治療
適切な抗生物質を内服することで多くは完治します。最低でも1週間の内服治療が必要で、時に2-3週間の内服が必要なことがあります。性感染症が原因の可能性がある場合には、クラミジアや淋菌に有効な抗生物質を投与します。完治すれば精巣上体の腫れや痛みは消失しますが、炎症が強かった場合には陰嚢内に“しこり”が残ることがあります。