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夜間頻尿

① 夜間頻尿とは?

夜間頻尿とは、「夜間排尿のために1回以上起きなければならない訴え」のことと定義されています。夜間頻尿は、患者さん本人またはご家族や介護者などが夜中のトイレで困っている場合に、はじめて治療の適応になります。すなわち、夜中3回トイレに起きても患者さん自身が困っていなければ、通常治療をする必要はありません。夜中に2回以上起きる場合に患者さんはQOL(Quality of Life: 生活の質)低下を自覚することが多く、2回以上起きる場合に治療をはじめることが多いです。床に入っても眠れずにトイレに行った回数は「夜間頻尿の回数」に含まれませんし、朝起床時のトイレも「夜間頻尿の回数」には入れません。

やや昔の統計ですが、日本の40歳以上の男女、計4570人にアンケートを取った結果、夜間に1回以上トイレに起きる人の割合は男性で72%、女性で67%と、非常に多くの方が夜間頻尿の定義に当てはまることがわかりました(Homma et al, Urology:68:560-64, 2006)。一方、夜間に2回以上トイレに起きる人の割合は、50歳~70歳の男性で30%、女性で20%、70歳以上になると男性で70%、女性で60%と、男女ともに加齢にともなって夜中の排尿回数が増えていくことがわかっています。もちろんこれら夜間頻尿を訴える患者さんのすべてが治療を求めて泌尿器科を受診するわけではありません。中には正常な加齢現象として受け入れて生活している方もいらっしゃいます。「夜間頻尿」が生活に与える影響は患者さん個々の生活スタイルや価値観などによって異なりますので、治療が必要かどうか、治療方法は何が適切かを決めるには、「夜間頻尿」がどの程度患者さんの生活、QOLに影響を及ぼしているかを評価することが重要です。

② 夜間頻尿の問題点は?~夜間頻尿は寿命を縮める!?

夜間頻尿は、夜間何度もトイレに起きることによって「睡眠不足」となり、昼間の「眠気」、「集中力の低下」、「活力の低下」、「娯楽活動への参加が減る」などの悪影響を起こす可能性があります。また患者さんの中には、常にトイレのことが気になって、トイレのことばかり考えてしまうなどの不安によって、さらに眠れなくなるなど悪循環に陥ることがあります。また、2010年の日本人を対象にした研究では、夜間2回以上トイレに行く「夜間頻尿」がある人は転倒による骨折の頻度が高いことや、なんと寿命が短くなることが報告されています(Nakagawa et al, J Urol 184:1413-18,2010)。ご高齢の方が骨折してしまうと、そのまま寝たきりになってしまい結果として寿命が短くなってしまう可能性は、超高齢化社会の今、とても重大な問題です。元気に日常生活を送るためには、充分な睡眠をとることが不可欠であり、夜間頻尿で辛い思いをしている方はやはり何らかの治療を行うことが必要でしょう。

③ 夜間頻尿の原因は?

夜間頻尿と関係のある患者さんの特徴としては、高齢であること、前立腺肥大症(男性)、肥満、糖尿病、高血圧、心臓病、鬱(うつ)病などが挙げられます。

「夜間頻尿」の主な原因は大きく分けると3つあります。① 多尿・夜間多尿、②膀胱容量の減少 ③睡眠障害 です。このうち、夜間多尿が33%、夜間多尿+膀胱容量の低下が21%、膀胱容量の低下が16%、多尿が17%を占めると報告されています(NUD 28 427-21、2009)。全体を見てみると、膀胱容量の低下が37%、尿量の異常がなんと71%であることがわかっています。すなわち、「夜間頻尿」の原因の多くは尿量の異常ということです。

1) 多尿と夜間多尿

多尿とは1日の尿量が標準よりも多い状態のことをいいます。1日の適切な尿量は1~1.5L程度と言われていますが、1日(24時間)の尿量が40mL/kg(体重)以上の場合、多尿と定義されます。つまり体重60㎏の人の場合、1日尿量が60×24=1440mL以上で「多尿」となります。多尿の主な原因は、水分過剰摂取(心因性多飲、薬剤性多飲など)や多喝症(脳の口喝中枢の異常: 脳腫瘍、頭部外傷などが原因)、薬剤性(抗コリン薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬、アルコール摂取など)、尿崩症(抗利尿ホルモン分泌異常: 脳腫瘍、頭部外傷後、遺伝性、妊娠などを契機に尿が過剰に産生させる疾患)、高血圧、糖尿病、高カルシウム血症などです。

夜間多尿とは言葉の通りで、夜間の尿量の多い状態のことをいいます。1日尿量のうち夜間就寝中の尿量が高齢者で33%以上、若年者で20%以上の場合夜間多尿と診断されます。高齢になるにつれて、体内の水分調節を行うホルモンの分泌が崩れたり、高血圧などによって日中、夜間の血圧の変動が起きることによって、夜間の尿量は増える傾向があります。また夕方以降に過剰に水分を摂取したり、野菜や汁物、スープなどの摂取、カフェインを含む緑茶やコーヒーの摂取、利尿作用のあるアルコール類の摂取をした場合、夜間尿量の増加は顕著になります。高血圧や心臓病などのお薬が原因で夜間多尿になる場合もあります。

下腿浮腫(足のむくみ)、腎機能障害による尿の濃縮障害も夜間多尿の原因になります。近年、睡眠時無呼吸症候群と夜間頻尿の関係も取り沙汰されています。睡眠時無呼吸症候群があり、眠りが浅いと、寝ているつもりでも脳は起きているため、腎臓の尿産生にストップがかからず、夜間の尿量が増え多尿になることがあります。

2)膀胱容量の低下

尿を溜める膀胱の容量が低下した状態のことをいいます。膀胱がしっかり伸びて尿を溜めこむことができれば、排尿の回数は正常ですが、膀胱が硬くしっかり膨らまない、尿がちょっと溜まっただけでも尿意を感じて(尿意過敏)しまう場合には、頻尿になります。夜間の尿量が多い場合、トイレに行く回数が増えてしまいます(夜間多尿)。

一回に膀胱にたまる量が少なくなると、全体の夜間の尿量が同じでもトイレに行く回数が増えます。膀胱容量が低下する原因は、前立腺肥大症、過活動膀胱、間質性膀胱炎などです。前立腺肥大症があると、尿の通り道が狭くなるため、自分では気が付きませんが膀胱には負担が生じています。この負担が長く続くと膀胱の筋肉が硬くなりしっかり膨らまなくなったり、膀胱内の尿意を感じる神経が壊れ、尿意過敏になり頻尿になります。過活動膀胱や間質性膀胱炎も膀胱内の尿意を感じる神経の異常により、少し尿が溜まっただけで強い尿意を感じてしまい、頻尿になることがあります。

3)睡眠障害

不眠は夜間多尿、夜間頻尿の原因になります。不眠症の原因は様々ですが、夜間眠れないと、尿が作られてしまうこと、また静かな環境で尿意を感じやすくなることが夜間頻尿に繋がります。トイレに行きたくなるから目が覚めてしまうのか、眠りが浅いから目が覚めてしまいトイレに行くのか、どちらが夜間頻尿の原因なのかは時に難しいことがあります。睡眠時無呼吸症候群はなかなか自分では気が付きません。自分では寝ているつもりでも、実は脳はしっかり休んでいないため、尿が作られてしまうこと、眠りが浅いため軽い尿意でも目が覚めてしまうことが夜間頻尿の原因になります。いびきがひどいと言われた人や、ぐっすり眠れたことがないという人は、睡眠時無呼吸症候群の検査を一度してみることをお勧めします。自宅で簡単にできる簡易検査で診断することができます。

④ 夜間頻尿の診断方法・必要な検査は?

夜間頻尿の原因は多岐にわたります。もちろん加齢も原因の一つですが、生活習慣や普段の飲み薬を見直すことで改善することがあります。具体的には以下の検査を、患者さん個々に合わせて必要なものを行い、原因を調べていきます。

1)排尿日誌

夜間頻尿の原因が多尿なのかを調べるためにきわめて重要な検査です。尿量を記載する日記帳と尿を測定する尿カップをお渡ししますので、ご自身で記載していただきます。トイレに行くたびにその時間と、カップで尿量を測定し記載していただきます。具体的には、何時何分にトイレに行って、何ミリリットルの尿が出たかを記載して頂くことが必要です。行う日は1日(24時間)チェックをして頂く必要があります。可能であれば最低2日間記載していただくと、傾向がわかりやすくなります。面倒に感じられるかもしれませんが、一度自分の1回排尿量や1日尿量を知っておくことはとても大事です!この検査結果で、飲み薬など治療が必要なのか、生活習慣の改善が必要なのかなどが明確になるため、是非やってきていただきたいと思います。

排尿機能学会ガイドラインより引用

2)既往歴、併存疾患、内服薬、身体所見

夜間頻尿の原因となる、心不全、糖尿病、高血圧、脳血管障害の有無を聴取いたします。また高血圧の薬や利尿剤の内服の有無、抗うつ薬内服の有無などを調べます。足のむくみ(下腿浮腫)の有無も大切な所見です。夜間いびきをかかないか、睡眠が浅くないか、睡眠の習慣をチェックすることも大切です。

3)尿検査

尿検査は簡単に行うことができ、多くの情報を得ることができる重要な検査です。尿検査で血尿の有無、膀胱炎の有無がわかりますし、蛋白尿や尿糖の有無で腎臓病、糖尿病の可能性がわかることがあります。尿検査で膀胱炎が疑われる場合には、まずは膀胱炎の治療を行い症状が改善するかを見る必要があります。

4)画像検査

腹部超音波検査を行い、腎臓、膀胱、男性の場合前立腺肥大の有無を調べます。尿路結石や膀胱腫瘍などの頻尿を起こしうる病気が隠れていないかを調べることができます。女性の場合、超音波検査で巨大な子宮筋腫が膀胱を圧迫していることがわかることもあります。

その他心不全の有無を胸のレントゲン検査で調べたり、脳や脊髄の異常を疑う場合はMRI検査を行うことがあります。

5)血液検査

すべての方に行うわけではありませんが、飲水量がそれほど多くないのに尿量が多い場合には、心不全のチェックや尿量と関係するカルシウムやカリウムの値を調べることで原因がわかることがあります。

また腎不全や糖尿病の有無も調べることができます。男性の場合、前立腺がんの有無を調べるため、PSA(ピーエスエー)と呼ばれる腫瘍マーカーをチェックすることがあります。

6 )尿流量測定検査(Uroflow ウロフロー、残尿測定検査)

特に前立腺肥大がある男性の方は、尿流量測定検査や残尿測定検査で排尿状態を調べることが大切です。これらの検査で自分が思っているよりも尿の出方が悪い方は、膀胱に常に負担がかかり尿を溜められなくなってしまいます。また膀胱の収縮障害(神経因性膀胱)による残尿過多や、女性の場合子宮筋腫による圧迫、骨盤臓器脱による膀胱の下垂によって残尿が増えていることがあり、これが頻尿の原因になることがあります。

以上の検査のうち、患者さん一人ひとりに対して必要な検査を行い、夜間頻尿の原因を調べていきます。原因によって、行う治療は異なります。

⑤ 夜間頻尿の治療は?~自身でできる治療もある

1)生活指導、食事・飲水量指導

夜間頻尿の原因が多尿であるならば、排尿日誌をもとに適切な水分摂取量を定め、飲水量の調節を行います。またアルコールやコーヒー・緑茶などカフェインの過剰摂取、塩分摂取量が多い方は塩分制限などを行うことで改善を目指します。

2)運動療法、行動療法

夕方あるいは夜間に運動(散歩、ダンベル運動、スクワットなど)を行うと、発汗による水分排出や、体内に貯留した水分を排出させることによって、夜間尿量が減少し、夜間頻尿が改善することがあります。また、適温での入浴や半身浴、青竹踏みによるツボの刺激によっても、血流改善から身体に貯留した水分を排出させることで、夜間尿量を低下させられる可能性があります。膀胱を温めると血流が良くなり膀胱が拡がりやすくなります。足がむくむ人は、昼間に足に弾性ストッキングと呼ばれるきつめのストッキングを装着することで、日中の尿量を増やすことで夜間頻尿が改善することがあります。

3)薬物療法

前立腺肥大がある場合は、前立腺肥大の治療薬を飲むことで、排尿状態が改善し、膀胱が膨らみやすくなることが期待できます。過活動膀胱などで尿意過敏になっていたり、膀胱が硬く膨らまないことが原因の場合には、抗コリン薬などの薬を飲むことで、夜間頻尿の改善が期待できます。お子さんの「おねしょ」の治療薬として使われていたデスモプレシンと呼ばれる薬が、近年男性の夜間多尿に処方できるようになりました。デスモプレシンは「抗利尿ホルモン」と呼ばれ、夜間に分泌されると夜間に尿が作られないようにしてくれるホルモンですが、加齢とともにこの「抗利尿ホルモン」の分泌が減ってしまい夜間多尿になる人がいます。この薬を飲むと、夜間の尿量が減少し、夜間頻尿が劇的に改善する人がいます。どの薬が最適かは患者さん個々で異なりますので、原因をしっかり調べたうえで、適切な治療薬を相談させていただきます。

4)その他

心不全、高血圧、糖尿病、内分泌異常(カルシウムやカリウムの異常など)が原因と考えられる場合には、内科と連携し原疾患の治療を行っていきます。また睡眠時無呼吸症候群が夜間頻尿の原因と考えられる場合には、その原因を調べ、気道閉塞(肥満などによる空気の通り道の閉塞)が原因の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合には、CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)と呼ばれる機械を夜間睡眠中に装着することで、気道閉塞を改善し、深い眠りを得ることで夜間頻尿が劇的に改善する場合があります。

以上のように「頻尿」「夜間頻尿」の原因は多岐にわたります。夜間頻尿を改善し、良質な睡眠を得ることが、患者さんの生活の質(QOL)の改善に繋がります。夜間頻尿でお悩みの方はぜひ「中野駅前ごんどう泌尿器科」に気軽にご相談ください。少しでも皆様の生活が楽になればと思っています。

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