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前立腺肥大症

①前立腺肥大症とは~前立腺肥大は男性の宿命

Marieb EN et al.
Human Anat Physiol 7th ed.
2007: 997–34

高齢男性に多く見られる病気です。尿道を取り囲む前立腺が年齢とともに大きくなり、尿道を閉塞させることで、様々な症状を引き起こします。
2014年の調査では、約50万人の方が前立腺肥大症と診断されており、年々頻度が増加していることがわかります。
食生活の変化(肉、乳製品の摂取、欧米化)がその原因と言われています。
前立腺重量は,性的成熟後 40~50 歳頃までは 20 g 前後とほぼ一定で、その後加齢に従って増加すると言われています。
前立腺組織を見てみると前立腺肥大は30歳代より認められ,その頻度は加齢に従って増加し,80歳代では約90% になると言われており、多くの男性が罹患する病気であることがわかっています。

Fowke JH, et al. J Urol. 2008; 180(5): 2091–96.
Roehrborn CG. BJU Int 2008; 101(Suppl):17–21.

②前立腺肥大症の症状は?

前立腺肥大症は下部尿路症状と呼ばれる、排尿や蓄尿(尿をためること)に関わる種々の症状を引き起こすことがわかっています。
たとえば尿の勢いが悪い(尿勢低下)、尿線が排尿中に分かれる(尿線分割)、残尿感、排尿後滴下(排尿後にパンツが濡れる)、日中の頻尿(昼間頻尿)、夜中寝ている時の頻尿(夜間頻尿)、尿意切迫感(尿の我慢が難しくなる)、尿漏れ、膀胱知覚の低下や亢進(神経因性膀胱や過活動膀胱)などの症状が起こることがあります。
特に夜間頻尿、昼間頻尿、尿勢低下の症状を訴える患者さんが最も多いことが知られています。

③前立腺肥大症の検査について

前立腺肥大症の診断は、排尿・蓄尿に関わる症状チェックと、尿の勢いの検査(尿流量測定検査)、残尿測定検査、超音波検査による前立腺の大きさの測定でわかります。
また尿検査で膀胱炎などの尿路感染症の有無を調べたり、血液検査でPSA(前立腺特異抗原 ピーエスエー)を測定し、前立腺がんが存在しないかを調べることも重要です。

  • 症状のチェック:患者さんの症状が軽症なのか、重症なのかを客観的に評価するために、国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score: IPSS)および過活動膀胱症状スコア(Overactive Bladder Symptom Score: OABSS)を使用します。
    クリニックの初診時はもちろん、薬の治療が始まった後でも、症状が改善したかどうかを調べるために何度か記入していただくことがあります。

国際前立腺症状スコア(IPSS)

男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン 日本泌尿器科学会編 2017年より引用

過活動膀胱症状スコア(OABSS)

男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン 日本泌尿器科学会編 2017年より引用

尿流量測定検査(Uroflowmetry: ウロフロー)

TOTO社HPより引用

患者さんの排尿の具合を客観的に調べる検査です。
尿の勢いが悪い、と思われて受診された方でも、実際にこの検査を行うと、意外と勢いが悪くない人もいます。
尿が貯まった時点で, 尿流測定トイレに向かって排尿をしていただきます。
当院では患者さんが通常通り自然な形で尿を足せるように、そして衛生面に配慮し、右図の便器一体型尿流測定器(TOTO社 フロースカイ)を導入しています。

尿流測定検査結果

正常では上図のように、一相の山型のグラフになります。一般的に最大尿流率は15ml/秒以上で正常、10-15を軽症、5-10を中等症、5ml/秒以下を重症と考えます。
下図のように、山の高さが低く排尿時間が長い「閉塞パターン」の場合、前立腺肥大症や尿道狭窄症の存在を疑い、また波をうつような「間歇排尿パターン」は、腹圧をかけて排尿していることを示します。
どちらのパターンも自然な排尿ではなく、膀胱に負荷がかかった状態です。
この排尿をずっと続けていると、膀胱の筋肉(排尿筋)や膀胱内部の感覚神経が破壊され、将来的に残尿過多や過活動膀胱、尿を自分で出せない尿閉や神経因性膀胱に繋がる可能性があり、危険なサインです。

NEW泌尿器科学 南江堂より引用

残尿測定検査

男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン
日本泌尿器科学会編2017年より引用

排尿をした後に、超音波検査で残尿量を測定します。残尿が50ml以下の場合を正常と考えます。
残尿が50ml以上ある場合、膀胱からの尿排出能の低下を疑いますが、日常の診察では100ml以下であればOKと考えることが多いです。
残尿があることは、患者さん自身では気が付かないことが多く、この検査で調べて初めてわかることが多いです。
残尿が多いと、ばい菌の住み家になり膀胱炎や前立腺炎などの尿路感染症を起こしやすくなります。
また常に膀胱のタンクに尿が溜まっている状態のためすぐに膀胱が一杯になり頻尿を引き起こします。
残尿が多いと膀胱内圧が常に高い状態になるため、膀胱内にある感覚神経が徐々に破壊され、過活動膀胱や神経因性膀胱(膀胱が収縮しなくなる)などの原因になることがわかっています。

超音波検査による前立腺の大きさの測定
腹部超音波検査、前立腺超音波検査(経直腸エコー)

前立腺は下腹部の恥骨と呼ばれる骨の奥深くに存在しています。
前立腺の大きさを測定するためには、お腹からの腹部超音波検査で十分可能です。
しかしながら、腹部超音波では、前立腺内部の詳細を調べることはできません。
腫瘍マーカー(PSA)が高く癌の可能性がある場合や、前立腺の炎症(前立腺炎)の有無などを含め詳細に前立腺を評価するためには、経直腸前立腺超音波検査が必要な場合があります。

前立腺の重量は正常の場合、20gでクルミくらいの大きさです。
20gを超える場合を前立腺肥大ありと判断します。
一般的に重量が50g以上の場合を重症と考えますが、時に100g以上の巨大な前立腺をもつ患者さんもいらっしゃいます。
不思議なのは、前立腺の大きさと症状は必ずしもリンクしないことです。
前立腺が小さいのに排尿障害が強い方もいれば、巨大な前立腺でも、勢いよく排尿できる人もいます。
前立腺肥大症の治療が必要かどうかは、単純に大きさだけでなく、各種検査結果や症状を総合的に判断し決定することが大切です。

④前立腺肥大症の治療について

現在は多くの良い薬があります。
α1遮断薬と呼ばれる尿道を開きやすくする薬を飲むことが主流ですが、PDE5阻害薬と呼ばれる前立腺や膀胱の血流を改善させる薬や、5α還元酵素阻害剤と呼ばれる前立腺を小さくする薬を併用することもあります。
α1遮断薬と5α還元酵素阻害剤を一緒に飲むことで、多くの方で尿閉(尿が出せなくなる状態)を予防できることが科学的に証明されています。
薬を飲むことで尿の勢いが良くなり、その結果残尿量が減って、夜間頻尿などの症状の改善が期待できます。
薬にも種類がいくつかありそれぞれ特徴が違いますので、当院では患者さん個々の症状に合わせて最適な飲み薬を選んで処方するようにしています。

症状が重度で、薬で改善しない場合や、薬を飲んでいても尿閉になる場合、膀胱炎・前立腺炎などの尿路感染症を繰り返す場合には、手術治療を考えます。
手術の方法はいくつかありますが、前立腺を内視鏡で内側から切除するTURP、レーザーで肥大した前立腺をくり抜くHoLEP、前立腺を内部から蒸散させるPVPなどの手術が行われています。
それぞれ利点や欠点がありますが、どの手術を選んでも多くの場合排尿の状態は改善します。
ただし、中には手術をしても頻尿などの症状が改善しない方もいます。
手術が必要かどうかは、担当医とよく相談のうえ決めることが必要です。
当院では手術が必要と判断した場合には、患者さんの症状、前立腺の大きさ、年齢、併存疾患などから、最適な手術治療を行える施設へ紹介させていただきます。

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