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慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群について

①前立腺炎とはどのような病気か?

前立腺は精液の一部である前立腺液を産生する臓器です。前立腺液は精子の運動を維持するために重要です。精巣(睾丸)で作られた精子と、精嚢から作られた精嚢液が前立腺液と混ざり、前立腺から尿道内に排出されます。前立腺に何らかの炎症を起こした状態を“前立腺炎”とよびます。

前立腺炎は前立腺に炎症が起こり、下腹部から骨盤部、会陰部を中心とする不快感や疼痛などの症状が出現する疾患です。細菌が前立腺に付着して生じる「細菌性前立腺炎」と、細菌と関係なく炎症が起こる「“非”細菌性前立腺炎」に分けられます。

アメリカの国立衛生研究所(NIH)は前立腺炎を、前立腺マッサージ後の尿中の「細菌の有無」と「白血球の有無」により下記の4つのタイプに分類しています(NIHコンセンサス分類)。前立腺炎を調べるための尿検査は通常通り排尿しても前立腺内の状態を明確に調べることはできません。

お尻から指をいれて(直腸診)前立腺を触診(前立腺マッサージ)した後に、出始めの尿(初尿)を採取し、尿沈渣検査を行うことで、前立腺内の細菌や白血球の状態を調べることが必要です。

〇 前立腺炎の分類と、細菌および白血球の関係(NIHコンセンサス分類)

NIHの分類 細菌 白血球
カテゴリーⅠ 急性細菌性前立腺炎 + +
カテゴリーⅡ 慢性細菌性前立腺炎 + +
カテゴリーⅢ 慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群 +/−
 カテゴリーⅢa 炎症性慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群 +
 カテゴリーⅢb 非炎症性慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群
カテゴリーⅣ 無症侯性炎症性前立腺炎 +

カテゴリーI(急性細菌性前立腺炎)

尿路感染症の一つであり、発熱(時に38度以上の高熱)、寒気、倦怠感、全身の筋肉痛などの全身症状を起こします。前立腺をお尻から触診すると、激しい痛みを伴う事が多く、また前立腺が腫れて尿が出しづらい、尿が近い(頻尿)、排尿時の痛みなどを伴います。抗生物質や排尿障害治療薬で治療します。詳しくは尿路感染症についてを参照ください。

カテゴリーII(慢性細菌性前立腺炎)

細菌性前立腺炎を繰り返す場合や、完全に治らずずっと炎症が持続(慢性化)した状態を「慢性細菌性前立腺炎」と言います。カテゴリーⅠの急性細菌性前立腺と比較して症状は軽い場合が多いです。抗生物質や排尿障害治療薬などで治療します。

カテゴリーIII(慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群)

細菌感染をともなわない前立腺炎で、下腹部から大腿、陰茎や陰嚢、会陰部、肛門周囲の痛みや不快感、違和感が下半身にかけて様々な症状が出現します。前立腺炎という病名がつけられていますが、前立腺付近の会陰部だけでなく、腰、尿道、大腿、鼠径部、下腹部など、前立腺とは離れた場所にも疼痛などの症状が現れることがあり、近年は「慢性骨盤痛症候群」とよぶことが適切と考えられています。

痛みの多くは鈍痛で、会陰部の場合は長時間座っていると悪化することが多いです。陰嚢、尿道ではピリピリ、チクチクといった神経痛のような痛みが出ることがあります。また、頻尿や残尿感、射精時の違和感・痛みなどの症状をともなうこともあります。痛みや違和感、不快感により、患者さんはしばしば日常生活を健やかに過ごすことができなくなり生活の質が低下します。また尿路の刺激症状(頻尿、排尿時痛)または尿路の閉塞症状(尿が出しづらい)を認めることもあります。お尻からの診察(直腸診)では前立腺に痛みを感じることがありますが、すべての方に共通した特徴的な所見はありません。

カテゴリーIV(無症候性炎症性前立腺炎)

特に前立腺炎の症状は認めず、たまたま前立腺の検査後に尿中に白血球が認められ発見された場合を無症候性炎症性前立腺炎と言います。通常治療の必要はありません。

〇前立腺炎を疑う場合には上記の分類を行うために、お尻から指で前立腺を診察する直腸診検査、尿検査、尿細菌培養検査、尿のクラミジア・淋菌検査などを行い診断します。また時に膀胱や前立腺の超音波や、陰嚢(精巣)の超音波検査を行う場合があります。

上記の分類のうち、カテゴリーIIとIIIを合わせて慢性前立腺炎と呼びますが、特に日常臨床で多く遭遇し、診断、治療に苦慮するのが、カテゴリーⅢの「慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群」です。

②慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群とは?

比較的若年者(10歳代後半~40 歳代)によくみられる前立腺の病気です。

原因ははっきりと解明されていませんが、前立腺周囲の血流不全(血の巡りが悪いこと)や、排尿障害による尿の前立腺内への浸潤、骨盤部や下半身の神経異常(感覚過敏など)、副腎ホルモンや性ホルモンの異常などが原因と推測されています。

長時間の座位(パソコンなどでのデスクワークなど)、長時間の車・自転車・バイクの運転など、前立腺のある会陰部が長時間圧迫されると慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群になりやすいことがわかっています。またそれ以外にも、精神的ストレス、疲労、喫煙、過度の飲酒、冷え症なども危険因子と言われています。

③慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の症状は?

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群では、下腹部から下半身にかけて様々な症状が現れることがあります。前立腺炎という病名がつけられていますが、前立腺付近の会陰部だけでなく、腰、尿道、鼠径部(大腿の付け根)、大腿、下腹部など、前立腺とは一見関係ないような場所にも症状が現れることがあり、診断に苦慮することも多いのが特徴です

また尿が近い、残尿感がある、尿の勢いが弱い、排尿後に尿が漏れる、排尿するときに尿道が痛い、尿道の違和感などの排尿症状や、下腹部が重苦しい、足の付け根の不快感、会陰部(肛門と陰嚢の間)の鈍痛・不快感・違和感、精巣(睾丸)の鈍痛・不快感・違和感、太ももの違和感などの疼痛、そして時には射精時の違和感、勃起障害などを伴うこともあります。

④慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の検査、診断について

お尻から指を入れて前立腺を診察(直腸診)します。通常触診で前立腺に痛みはありませんが、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群では時に強い痛みを感じたり、また前立腺の一部が硬い「硬結」として触れたりすることがあります。直腸診の時に前立腺をマッサージすると、一時的に症状が良くなることがあり、前立腺の血流の改善が関与している可能性が指摘されています。また尿検査で尿中の白血球(炎症細胞)の有無を調べたり、尿細菌培養検査で細菌の有無を調べます。性行為感染症の原因である、クラミジアや淋菌などの細菌が前立腺に寄生し前立腺炎を発症することもありますので、尿のクラミジア・淋菌検査を行うこともあります

尿検査や尿細菌培養検査で異常があれば、細菌性前立腺炎と診断し、適切な抗生物質の投与を行いますが、一方、尿検査や尿細菌培養検査で異常が無い場合、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群と考え治療を行います。

⑤慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の治療方法

1)薬物治療

1)-1:「α1ブロッカー」

前立腺肥大症の治療薬で、尿道を拡げることで尿の通りを改善する薬です。慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の患者さんに対してα1ブロッカーが有効であることは多くの研究で示されています。α1ブロッカーで尿の通りを改善することで、前立腺の炎症や、前立腺周囲のストレスを改善する作用が期待できます。しかしながら効果には個人差があり、長期的にα1ブロッカーが有効であるかどうかは未だ結論がでておりません。

1)-2:「抗生物質」

抗生物質の有効性に関しては未だ議論があるところですが、過去に6-12週間抗生物質を投与した場合に、患者さんの症状や生活の質を改善したとする報告があり、実際の臨床でも抗生物質を処方することはあります。ただし長期間の抗生物質投与は薬剤耐性菌を産む可能性があり、必ずしも長期の抗生剤を投与することが適切であるかどうかはわかっていません。

1)-3:「5α還元酵素阻害薬」

前立腺肥大症に対する治療薬です。日本で使用されている薬剤は、前立腺肥大症に対するデュタステリド(アボルブ®)や、男性型脱毛症(AGA)に対するフィナステリド(プロペシア®)の2つです。デュタステリドは前立腺肥大の方が数か月間内服することで、前立腺が小さくなり、前立腺肥大による種々の症状を改善させる薬です。デュタステリドが慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の患者さんの症状を改善したという研究があり、有用である可能性はありますが、残念ながら日本では慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に対して保険診療でデュタステリドを投与することはできません。実際に前立腺肥大症が合併している場合には保険診療で使用することが可能です。

1)-4:「PDE5阻害薬」

もともとは勃起障害(ED)の治療薬ですが、ザルティア®という薬を前立腺肥大症の患者さんに投与することで、前立腺や膀胱など骨盤内の血液循環を改善することで、様々な症状を改善させることがわかっています。この薬を慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の患者さんに投与することで症状が改善したとする研究が日本からも報告されていますが、やはり慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に対して保険診療で投与することはできません。この薬も実際に前立腺肥大症が合併している場合には保険診療で使用することが可能です。

1)-5:「消炎鎮痛薬」

いわゆる痛み止めですが、前立腺やその周囲の炎症を抑えることで慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群にともなう症状を改善させる可能性があります。ただし、長期間の内服は腎臓への負担など副作用も懸念されるため、私は症状が強いときに短期間使用することが多いです。

1)-6:「抗うつ薬」

抗うつ薬というと嫌悪感を示される患者さんもおられますが、抗うつ薬はガンに伴う神経性の疼痛や原因不明の膀胱痛に対して有効であることが示されており、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群による疼痛にも有効である可能性が示唆されています。よく使われるのはトリプタノール®という薬で、抗うつ薬の1つですが、実際にうつ病の患者さんに投与する量と比較し少量であり、またお子様のおねしょ(夜尿症)や、頻尿や尿漏れなどの症状を改善させることもわかっている、安全な薬です。痛みの原因となる神経の興奮を抑制することで症状を改善できる可能性があります。

1)-7:「植物製剤」

セルニルトン®と呼ばれる薬は、慢性前立腺炎に対して日本で唯一保険適応となっている植物製剤です。その有効性に関しては昔から多くの研究で証明されていますセルニチン・ボーレンエキスという植物エキスが、前立腺の炎症を抑え、様々な症状を改善できる可能性があります。

1)-8:「抗けいれん薬」

神経性の疼痛に対して使用されるプレガバリン(リリカ®)は、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の患者さんの症状が神経が原因であると予想される場合に有効である可能性がありますが、いまだその有効性を証明した研究はありません。

1)-9:「漢方薬」

漢方薬には多くの種類がありますが、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の原因の一つとして骨盤内の血流うっ滞が挙げられており、血液の循環を改善し血液のうっ滞を取ってくれる漢方薬を使用することで症状が改善することがあります。

薬の内服で症状が改善する場合も多いですが、症状が改善しない場合や、改善してもまた繰り返すことが多いのが慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の特徴です。そのため、薬物治療と並行して原因と考えられる患者さん自身の生活習慣を改善していくことがとても重要です。

2)患者さんが自分自身で行うことができる治療

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群は、治療を受けても治らなかったり繰り返すことが多いため、患者さんは治療に不信を持ち、多くの病院、クリニックを受診することが多いです。

この病気は診断がとても難しく、治療に時間がかかること、特効薬がないことが特徴で、薬物治療だけでは治療が完結しない場合が多いです。なかなか治らないからと言ってすぐに別の病院を受診することはあまりお勧めできません。薬を色々と試しながら、患者さん自身が生活習慣を改善することで、焦らずじっくりと治療していくことが大切です。

患者さん自身が実践できる、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の症状改善に有効と思われる対策を以下に記載します。

2)-1:運動

過去の研究で、20~50歳の慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群患者さんに有酸素運動を行った結果、有酸素運動をしなかった場合に比べて疼痛など慢性前立腺炎の症状を有意に改善したと報告されています(Giubilei et al. j Urol 2007)。

またマウス(ネズミ)を使用した研究でも、ストレスを与えることで、膀胱痛などの症状を発生させることがわかっており、人間においても運動や、入浴などでリラックスしたり、ストレスを減らすような職場環境、家庭環境を作っていくことは重要と思われます。また、骨盤内の血流改善には、下半身の筋肉を大きく使うような運動も有効だと思われます。特に太ももの内側にある内転筋を収縮させるようなスクワット運動や又割りなどのストレッチ運動、またふくらはぎや足の裏をマッサージし血液循環を改善することは、慢性前立腺炎の症状改善に寄与する可能性があると思われます。

2)-2:長時間座り続けない

座る時間が長いほど寿命が短くなる、と言った怖い研究結果ででているように、座ることは身体に良くありません。座ること自体もそうですが、歩いたり動いたりしないで足の筋肉を使わないことで、病気のリスクが上がると言われています。特にふくらはぎの筋肉は“第2の心臓”と呼ばれるほど身体,その中でも特に下半身の血液循環に重要な筋肉です。

歩くことによって、ふくらはぎを含めた足の筋肉は収縮し、その収縮によって下半身の血液は心臓に戻っていきます。座っている時間が長いと下半身の血流が滞り、骨盤内の血流も停滞します。また男性の場合座った時に圧迫される場所(会陰部)に前立腺があります。実際に手術を行っているとよくわかりますが、前立腺周囲には、たくさんの血管があり、下半身の血液はこの血管を通って心臓へと循環されます。前立腺部分が圧迫され続けていると、下半身や骨盤内の血液循環が悪くなり、骨盤内や下半身の筋肉に痛みを感じることが、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の症状の一因と言えると思います。

自転車、バイク、乗馬などによって、慢性前立腺炎の症状が悪化することは以前から知られています。特に、細くて硬いサドルの自転車に乗って会陰部が圧迫されることで、会陰部の神経や動脈の障害が起こり、頻尿、膀胱痛、会陰部痛、射精時痛、勃起障害などが出現することがあると言われています。

日本人は勤勉で、座っている時間は世界1と言われています。座り続けず、30分から1時間に1度は立ち上がってストレッチや下半身のマッサージを行う、座る場合には円座などを用いて会陰部が直接圧迫されないようにするなどの対策が有効と思われます。

2)-3:食事を変える

海外の研究では、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群患者さんのうち半数(50%)に、便秘や腸過敏、食後の腹部膨満の症状があったと報告されています(Bartoletti et al. J Urol 2007)。

便秘があると骨盤内の血流が悪くなり、骨盤内の筋肉が攣縮(けいれん)を起こすと考えられており、食事内容を見直すこと、特に食物繊維を十分摂取し便秘を予防したり、腸内環境を整えることで、慢性前立腺炎の症状改善につながる可能性があると考えられます。また、コーヒーや香辛料などの刺激物や、アルコール、炭水化物や乳製品の過剰摂取も慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の症状悪化に関連すると言われています。

2)-4:適度に射精する

海外の報告では慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群患者さんは性欲や勃起機能、生活動の頻度が低いことが多いとされ、週2回以上の射精習慣によって症状が改善したと言われています(Aubin et al. J Sex Med 2008)。

2)-5:ストレスを避ける

精神的ストレスによって骨盤内疼痛や尿意切迫感などの排尿障害が悪化したとする報告があり、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の症状改善には、精神的ストレスを可能な限り軽減させることが有効であることはおそらく間違いないと思います。自分では気が付かないストレスが無いか、今一度見直してみることが必要です。運動習慣などをつけて、気分転換をはかることも重要でしょう。

骨盤内うっ滞を改善するために、鍼治療が有効であるといった研究が本邦でも報告されています(Honjo et al. Int J Urol 2004)。薬物治療や生活習慣改善で症状が良くならない場合、鍼治療を行うことも一案です。

以上のように、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の治療法は多くありますが、特効薬やこの治療が最も良いといった確固としたものは無いのが現実です。まだ不明なことが多い病気ですが、様々な治療を試していくと効果がある治療が見つかることも多いですし、患者さん自身が自身の身体を分かってくると、こうすると症状がでにくい、などの習慣がわかることもあります。

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の症状でお悩みの方は「中野駅前ごんどう泌尿器科」にご相談ください。少しでも症状が改善され日常生活が健やかに送れるよう、治療法を考えさせていただきます。

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